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保険適用貴金属合金の歯科市場(金パラ編)

国内の歯科治療でポピュラーな材料の一つである金パラのメーカー出荷量は、近年どのように推移しているのでしょう。

貴金属地金相場による出荷量変化と銀合金への一部シフトが見られます

 

金パラの歴史

金パラは、1956年にJIS T 6106「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」として規格化されました。
規格化された当時は、金とパラジウムの合計含有量が30%以上でしたが、その後、金の含有量が段階的に引き上げられ、1974年に現在の金12%以上、パラジウム20%以上となりました。
現在各社から発売されている金パラの合金成分は、金12%、パラジウム20%、銀40~50%に集約されています[1]

JIS T 6106「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」[2]~[8]

 

金パラの出荷量

厚生労働省の薬事工業生産動態調査によると、メーカーの出荷量は年々減少し、2008年と比べると、2018年は3割程度(21,700kg)減少しています。

金パラの国内出荷量[9]

 

減少した要因の一つには、「歯の健康が守られてきた背景とは?(前編)」のとおり、長年にわたるオーラルケア啓蒙による、う蝕歯数の減少が考えられます。

また、充填用コンポジットレジンやCAD/CAM冠用ブロックのような代替材料の普及に加え、金パラの原材料である貴金属地金の相場高騰に応じて価格が上昇したことも影響していると言えるでしょう。

貴金属地金相場の影響

パラジウムの地金価格推移を、同じ白金族であるプラチナと比較しました。
パラジウムは長くプラチナより安価でしたが、2017年9月末に逆転し、直近ではプラチナの価格の2倍を超える状況となっています。

貴金属地金相場(Pt・Pd)[10]

 

パラジウムは自動車の排気ガス除去のための触媒として利用されることから、世界最大の自動車市場である中国の経済発展に伴い急速に価格が上昇しました。新型コロナウイルスによる経済発展停滞への懸念から少し落ち着きを取り戻しましたが、現在も価格は高水準にあるため、金パラの製品価格も高止まりしている状況にあります。

診療報酬請求時の材料代が、保険点数(材料料)を上回る「逆ザヤ」解消は近年の課題となっています。
このような環境下、歯科用貴金属価格の改定は、随時改定Ⅰ(4月、10月)に加え、2020年4月以降、随時改定Ⅰの3カ月後(7月、1月)にも見直しを行う随時改定Ⅱが特例で設けられました。

金パラの価格改定状況[11]

 

鋳造用銀合金第2種

金パラの材料価格の「逆ザヤ」が続いたことを背景に、金パラに代替する材料として、鋳造用銀合金第2種のメーカー出荷量が増えています。

2020年と2019年の月別出荷量を比較すると、新型コロナウイルス特別措置法が成立し、国民の間に感染拡大の不安が高まった2020年3月を除き、前年を上回っていることがわかります。

銀合金第2種の国内出荷量[9]

 

金パラと銀合金の主な用途は、ヤマキンの製品の場合、次表のとおりとしています。
銀合金は金パラと比べ、硬さ、引張強さ、伸びなどの物性が劣るため、適応用途に注意が必要です。
なお、銀合金第1種は白金族元素を含まない[12]ため、銀合金の中でも強度が低く脆いことから、使用可能な用途は限られています。

金パラと銀合金の主な用途(ヤマキンの製品の場合)

 

銀合金を使用するときは、WebマガジンQ&Aもご参考ください

諸般の事情で、金パラの代替材料として銀合金を選択する場合は、前述のとおり留意すべき事項があります。
銀合金の特徴や留意点などを解説したQ&Aを公開していますのでご参考ください。

 

[1]YAMAKIN株式会社 METAL NAVI 歯科用貴金属合金の選び方 第3版
[2]JIS T 6106:1956「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」
[3]JIS T 6106:1962「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」
[4]JIS T 6106:1968「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」
[5]JIS T 6106:1974「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」
[6]JIS T 6106:1985「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」
[7]JIS T 6106:1991「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」
[8]JIS T 6106:2011「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」
[9]厚生労働省 薬事工業生産動態調査統計
[10]YAMAKIN株式会社 貴金属地金小売価格
[11]中央社会保険医療協議会 総会(第467回)資料
[12]JIS T 6108:2005「歯科鋳造用銀合金」