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コロナ禍で歯科材料市場はどうだったのか

日本で2020年1月中旬に初めて新型コロナウイルス感染症が確認され、以降、感染拡大により医療だけでなく経済活動にも影響を与え、依然として感染再拡大と経済停滞の懸念に苛まれている状況です。
このような未曽有の状況は、歯科材料市場にどのような影響を与えたのか、振り返ってみたいと思います。
※患者数の推移や医療機関等への各種支援については、厚生労働省や各都道府県Webサイトに詳細にまとめられていますので、ここでは「市場」としてマクロ的視点で考察します。

診療報酬確定件数による医科と歯科の比較

社会保険診療支払基金では、医療保険や協会けんぽ、共済組合といった管掌別およびその合計の診療報酬確定件数や金額などを、月報・年報として統計を公開しています。
そのうち医科と歯科の月別診療報酬確定件数の推移を過去3年と比較しました。

医科の診療報酬確定件数について

2017~2019年は1年の中で3月が最も診療報酬確定件数が多かったのに対し、2020年は2月を境に減少に転じました

出典:社会保険診療支払基金 統計月報

 

2020年3月13日に新型コロナウイルス特別措置法が成立するなど、国民の間に感染症蔓延への不安が高まった時期であり、その後5月まで急激に減少を続けました。
この5月は各都道府県に出されていた緊急事態宣言が徐々に解除された時期にあり、6月には増加に転じ、8月に2017年や2018年近くまで回復しました。

【診療科別の特徴】

株式会社日経BPが配信するメディア「日経メディカルOnline」では、医師会員3,668人を対象に、2020年3月13日~17日に1年前の同時期との外来患者数の変化について、調査をおこなった[1]ところ、「減っている」との回答が53.4%を占めており、前述の診療報酬確定件数の統計と合致しています。

この調査では、患者の増減に診療科ごとの特徴が出ていることが述べられています。

診療科ごとの患者の増減

 

小児科や整形外科、消化器科の患者が減っている理由として、手洗いやマスクの習慣、集団生活の自粛により、インフルエンザや風邪、胃腸炎などの感染症が減ったことや、休校や外出控えによって部活での受傷や子どもの怪我が減ったことを挙げています。また、感染を恐れて受診控えがあるといった医師の声も複数紹介しています。

歯科の診療報酬確定件数について

歯科においても、診療報酬確定件数が過去3年の実績に比べ、大幅に減少したことがわかります。

出典:社会保険診療支払基金 統計月報

 

歯科が医科と大きく異なるのは、新型コロナウイルス特別措置法が成立し、医科では減少に転じた3月にあっても前月より増加し、2017年や2018年より多かったという点です。
これは歯科治療の場合は医科の多くの外来治療と異なり、初診から治療完了まで計画的に数回の通院が実施されることによるものと推察できます。

さらに、5月を「底」に増加に転じますが、すでに6月時点で過去の件数に迫るまでに回復していることが特徴です。
これは、

  • 以前から計画的に進めていたものの、やむなく一時休止していた治療が再開された。
  • 自粛期間中に症状を我慢していた患者が通院を開始した。

といった背景が考えられます。
その後、歯科では8月には2017年や2018年を超える件数に至りました。

保険適用製品の出荷量

歯科材料の出荷量の変化を、集計方法の大幅変更がおこなわれた2019年1月以降を対象に比較しました。

充填用コンポジットレジン

コロナ禍において前年から出荷量が減少しており、前述の社会保険診療支払基金による統計(歯科)の診療報酬確定件数に類似した動きを見せていることから、コロナ禍の影響があったことが読み取れます。

出典:厚生労働省 薬事工業生産動態調査統計 月報

 

歯冠用硬質レジン

年始以来の出荷量は、2020年(2,920kg)は前年(2,644kg)に比べ増加していることからコロナ禍の影響を受けていないことが読み取れます。
歯冠用硬質レジンは前歯に利用される割合が多く、日常生活や顔貌に影響する治療であることから、コロナ禍においても患者にとって優先したいものであったと推察します。

出典:厚生労働省 薬事工業生産動態調査統計 月報

 

なお、歯冠用硬質レジンが(前年も含めて)診療報酬確定件数の動きに対して「ずれ」が生じているのは、充填用コンポジットレジンとは異なり、歯科診療所でそのまま充填されるのではなく、歯科技工所での製作期間が必要であることのほか、色調だけでなく築盛層に応じたラインアップを歯科技工所や販売店が多数在庫する必要があるため、メーカーが実施するキャンペーン時に出荷量が多くなるからと考えられます。

歯科切削加工用レジン材料(CAD/CAM冠用ブロック)は、2020年4月に機能区分の追加・変更があったため、各メーカーの出荷タイミングによって前年実績や感染症拡大の比較に有意性が見られないことから、割愛します。

自由診療製品の出荷量

ここまで診療報酬確定件数や保険適用製品の出荷量を見てきましたが、保険適用外の診療への影響はどうでしょうか。
自由診療の治療件数や支払い金額を示す客観的統計が存在しないため、歯科切削加工用セラミックス(ジルコニアディスクなど)の出荷量を判断材料としたいと思います。

【歯科切削加工用セラミックス】

医療系市場調査会社の株式会社アールアンドディが毎年発行する「歯科機器・用品年鑑2020年版」[3]によると、歯科切削加工用セラミックスは、年7%の割合で市場が拡大しています。
したがって、コロナ禍の影響がなければ2020年は2019年より増加し、「上に乗る」かたちになるはずです。

果たして、2020年は2月から3月にかけて大きく減少しているものの、これまで見てきた診療報酬確定件数や保険適用製品の出荷量とは異なり、上半期は前年を上回る実績となっています。

出典:厚生労働省 薬事工業生産動態調査統計 月報

 

日本歯科新聞8月4日号記事[2]「総件数はマイナス22.1%(5月診療分)」で日本歯科医師会アンケート調査報告書を紹介していますが、この中で「自費診療の患者数については、『変わらない』が44.1%で最も多い」と触れていることを、出荷量の面から示した格好です。

これからの歯科医療

2020年9月23日に公益社団法人日本歯科医師会がリリースした「歯科医療に関する一般生活者意識調査」[4]では、新型コロナウイルス感染拡大による影響について、

  • 2020年1〜6月に受診をキャンセルした人は「現在治療中」の約2割、「現在中断中」の約3割。3〜4月のキャンセルが目立つ。
  • 5月以降、歯科受診や定期チェックを受ける人が徐々に増加。
  • すべての年代で、歯科受診を不安に感じる人は減少している。

と報告されています。

コロナ禍でも受診を不安に感じない理由として、かかりつけ歯科医への信頼や衛生面への配慮、歯科医療機関での感染報告がないことなどが挙げられており、歯科医師が並々ならぬ努力を続けていることが偲ばれます。

11月に入り急に気温が下がったこともあり、PCR検査陽性者数が増加している地域も見られますが、一日も早く通常期の状態に戻り、患者が全く気兼ねなく診療に訪れる日が来ることを期待します。

 

[1]日経メディカルOnline 2020年3月27日配信(2020年11月10日閲覧)https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202003/564922.html
[2]『日本歯科新聞』2020年8月4日号1面「総件数はマイナス22.1%(5月診療分)」
[3]株式会社アールアンドディ(医療系市場調査会社)「歯科機器・用品年鑑2020年版」(毎年発行)
[4]日本歯科医師会2020年9月23日リリース「歯科医療に関する一般生活者意識調査」https://www.jda.or.jp/jda/release/cimg/2020/DentalMedicalAwarenessSurvey_R2.pdf