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歯の健康が守られてきた背景とは?【前編:8020運動ほか】

昔に比べ、近年、テレビCMや雑誌などで「オーラルケア」という言葉を目や耳にする機会が増え、世間的にオーラルケアに対する意識が高まってきているように感じます。

実際、厚生労働省による「平成28年歯科疾患実態調査」※1の結果からもそのことが伺えます。

8020運動や歯磨きの習慣化によって歯の健康が守られています。

【まとめ】
① 8020達成者は、5年前の調査の40.2%から51.2%に増加。
② 1980年代は、オーラルケアの大転換期。
③ 長年にわたるオーラルケア啓蒙によって、若い世代も う蝕が減少。

8020運動の達成者が、50%を上回りました。

厚生労働省の「平成28年歯科疾患実態調査」※1によれば、80歳になっても自分の歯が20本以上ある「8020(はちまるにいまる)」を達成した人の割合は、5年前の調査の40.2%から51.2%に増加しました。

8020達成者は、75歳以上85歳未満の数値から推計

◎歯の状況(20本以上の歯が残っている人の割合) ※1

8020運動が始まったのは約30年前の1989年。
当時50歳前後の人に、歯の健康について、地道に継続的に訴えかけることで、80歳の現在、このような成果につながったということがわかります。
日本歯科医師会や厚生労働省をはじめとした、歯科医療従事者の努力をはっきり感じることができます。

つぎに、年代別に1人平均の う蝕歯数の推移を見てみました。
下のグラフのとおり、平均う蝕歯数は調査年ごとに全年代で着実に減少。とりわけ10歳代から40歳代に
かけての、若い世代で減少していることがわかります。

◎年齢階級別 平均う蝕(DMF)歯数 ※1
(DMF:未処置う歯・う蝕原因の喪失歯・う蝕原因の処置歯)

健康な歯のために必要なこととして、まず思い浮かぶのはブラッシングです。
そこで、歯磨きと う蝕歯数の関係を、統計から比較しました。

毎日歯を磨く人の数はおよそ95%(あたりまえとお考えかもしれませんが…)

歯磨きについての調査結果によれば、毎日歯を磨く人の割合は1981年に90%に達し、近年では95%を超えるまでになりました。

◎毎日歯を磨く人の割合の推移 ※1

今となっては「毎日歯を磨く」ことは、あたり前に感じますが、日本人が歯を磨く習慣は、1980年代に大きな変化があって、今に至ります。

1980年代はオーラルケアの転換期。8020運動のスタートも1989年。

次のグラフでは「歯を磨く頻度」の変化を示しています。
1981年までは「1日1回」の人が最も多く、歯を磨かない人も一定数であったことがわかります。
しかし、1987年には「1日2回」が最も多くなり、「1日3回以上」という人も1割を超えるようになりました。

◎歯を磨く頻度の推移 ※1

1980年代には、それまで研磨剤による「白い歯」をコンセプトにしていたオーラルケア市場に「歯垢を分解」「歯間を清掃」「再石灰化」「歯周病予防」といった、さまざまな機能を持つ歯みがき粉や歯ブラシ、洗口液が続々と登場しました。
現在も販売されているオーラルケア製品ブランドの多くが、この時期に誕生しています。
そのころ登場した商品を、CMのサウンドロゴ(商品名のメロディ)とともに記憶している方も多いのではないでしょうか。

さらに、日本歯科医師会と厚生省(当時)によって、8020運動が提唱されたのは1989年でした。
このような経緯から、日本人のう蝕予防に対する意識が改革され、歯を磨く習慣が着実に根付き、年々う蝕歯数が減少し、健康な歯を持つ人が増加したことがうかがえます。

若い世代のう蝕の減少は、保護者の意識改革から

「平成28年歯科疾患実態調査」※1では、乳幼児期の歯磨きの傾向が大きく変わってきたことが統計として現れています。

◎毎日2回以上磨く者と磨かない者の割合推移1-4歳(1969年のみ0-4歳)※1

ひとりで歯を磨くことが難しい年齢であるため、保護者によって幼い頃から歯磨きをする習慣を身につけるようになったことが読み取れます。
これは、乳歯であってもきっちり磨くことの大切さが周知された結果でもあると考えられます。

以上のように、大人はもちろん乳幼児の歯磨きの習慣化と、8020運動の成果や日本人の う蝕の減少を比較することで、生涯の健康は産まれたときから築き続けるべきという、歯科医療業界の強い信念を感じます。

う蝕予防には、歯磨きや歯間部の清掃に加え、フッ化物の利用が大きく貢献していると考えられています。
政府「健康日本21(第2次)」※2の参考資料では、「フッ化物応用法や小窩裂溝填塞法(シーラント)等のエビデンスが確立しているう蝕予防法について、地域の現状に応じて実施することが求められる」と述べられています。

次回は、う蝕予防とフッ化物応用の関係を考察いたします。

【参考文献】

統計表:
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-17c.html

結果(概要)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-28-02.pdf

「参考資料」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf