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歯科診療のデジタル化を診療回数から検証しました

2014年4月に保険導入されたCAD/CAM冠は、適応範囲が段階的に拡大され、CAD/CAMインレーも2022年4月に保険適用されました。
今回は、デジタル歯科技工の先鋒であるCAD/CAM冠やCAD/CAMインレーの診療行為の回数をもとに、歯科医療のデジタル化について検証しました。

CAD/CAM冠とCAD/CAMインレーの市場について

今回は厚生労働省の社会医療診療行為別統計から、ハイブリッドレジンブロックを用いたCAD/CAM冠やCAD/CAMインレーの治療がどの程度普及したのかを探ります。

保険導入と適応範囲の拡大

2014年4月に先進医療から保険導入されたCAD/CAM冠(クラウン)は、小臼歯から大臼歯、そして前歯へと適応範囲が拡大、2022年4月にはいよいよCAD/CAMインレーが保険適用となりました。
咬合圧による耐久性や前歯における審美性など、新素材に対する口腔内でのリスクを臨床的に解明することで、一歩一歩、適応範囲の拡大が進んだ格好です。

CAD/CAM冠とCAD/CAM冠インレーの適応範囲の拡大

 

CAD/CAM冠(クラウン)の普及状況

かつては硬質レジンジャケット冠を除き金属以外に材料選択の余地がなかった全部被覆冠ですが、CAD/CAM冠の登場によって、どのように変化したでしょうか。
厚生労働省の社会医療診療行為別統計(以下、統計)は、毎年6月の審査分を対象として集計されており、この中から、今回は診療行為の回数を抽出し、小臼歯・大臼歯に分けて歯科用金属と対比し検証します。

  1. 小臼歯

    最新の統計(2021年6月分)では、金属とCAD/CAM冠の合計のうち、CAD/CAM冠が占める割合は44.9 %(前年比+1.2 %)でした。
    CAD/CAM冠の普及が進んでいる要因としては、CAD/CAM冠の技術料が1,200点で全部金属冠の454点に比べ高く設定されていることと、金属冠と比べて審美性に優れていることが挙げられます。

    小臼歯における全部被覆冠の診療回数(材料)集計(金属とCAD/CAM冠)

     

    なお、次項の大臼歯同様2020年6月に大幅な減少が見られますが、新型コロナウイルス感染拡大が始まった時期であることが影響していると見られます。
    新型コロナウイルスと診療報酬確定件数の関連については、ヤマキンのWebマガジンで詳しく報告しております。ご参照ください。

    コロナ禍で歯科材料市場はどうだったのか 2020年11月19日公開
    https://www.yamakin-gold.co.jp/yn/ym143_market-trends/

    コロナ禍が歯科市場に与えた影響とは(2021年6月版) 2021年6月25日公開
    https://www.yamakin-gold.co.jp/yn/ym152_market-trends/

  2. 大臼歯

    大臼歯でのCAD/CAM冠は、2016年4月に金属アレルギー患者に限り大臼歯が適応となったのち、下顎第一大臼歯、上顎第一大臼歯と段階的に適応範囲が拡大してきました。
    最新の統計(2021年6月分)では、金属とCAD/CAM冠の合計のうち、CAD/CAM冠が占める割合は11.2 %でした。
    特筆すべきは2020年、下顎のみならず上顎第一大臼歯まで適応範囲が拡大された直後に、一気に前年(2019年)3.7%の倍以上となる10.1 %を示したことであり、CAD/CAM冠への期待の高さが実績に表れています。

    大臼歯における全部被覆冠の診療回数(材料)集計(金属とCAD/CAM冠)

     

    現在は上顎第一大臼歯までが適応範囲とされていますが、東北大学の研究報告[1]において、CAD/CAM冠用材料(Ⅲ)の第二大臼歯に対する治療成績は第一大臼歯の場合と統計学的に同等であり、適応範囲をすべての大臼歯に拡大できることを示唆する結果であったと述べていることから、将来的な診療報酬改定により、現在、金属アレルギー患者のみに認められている第二大臼歯や第三大臼歯への適用拡大が期待されます。

    ※参考文献[1]Miyu Inomata, Akio Harada, Shin Kasahara, Taro Kusama, Akane, Ozaki, Yusuke Katsuda, Hiroshi Egusa:Potential complications of CAD/CAM-produced resin composite crowns on molars: A retrospective cohort study over four years. PLOS ONE, 2022.

  3. 前歯

    前歯については、金属冠の診療回数がわずかであることから、レジン前装金属冠とCAD/CAM冠の割合で比較しました。
    前歯のCAD/CAM冠は2020年9月に適応範囲となり、その9カ月後と間もない時期であるにもかかわらず、1割に迫る結果となっています。
    これは、小臼歯・大臼歯で実績を積んだ材料と加工方法であることと、従来の小臼歯用・大臼歯用にはなかった「積層構造」が材料の定義と定められたことから、審美性も担保されていることによると推察します。

    前歯における全部被覆冠の診療回数(材料)集計(レジン前装金属冠とCAD/CAM冠)

     

CAD/CAMインレーのこれから

最新の統計は2021年6月分であることから、2022年4月の診療報酬改定で保険適用となったCAD/CAMインレーは含まれておりません。
そこでレジンインレーを金属インレーと比較し、どの程度非貴金属材料が利用されているかを調べました。
その結果、インレー症例のうち約86.0 %が金銀パラジウム合金を使用しており、非貴金属のレジンインレーは5.6 %でした。

インレーの診療回数(材料別)

 

このようにCAD/CAMインレーの保険適用前に、レジン材料を使用する土壌ができていることから、保険適用後のCAD/CAMインレーの利用は、小臼歯・大臼歯・前歯のCAD/CAM冠(クラウン)以上に、当初から一定の割合を示すものと推測できます。

今回検証したとおり、ハイブリッドレジンブロックを用いたCAD/CAM冠やCAD/CAMインレーは、金属材料のみでおこなわれていた診療に新たな材料の選択肢として加わり、それぞれの部位で適応範囲となってからの期間に差はあるものの、相当に普及が進んでいることがわかりました。
今後は、患者ごとの口腔内環境や審美的ニーズに応じた材料選択により、デジタル技術を応用した歯科技工物による診療は、さらに回数が増えるものと予想できます。