Q&A

【歯科用合金Q&A】歯みがきの泡がグレーに? 銀合金修復物で気をつけることとは

貴金属地金相場が不安定な状況下、歯科修復物の製作に歯科鋳造用金銀パラジウム合金(以下、金銀パラジウム合金)ではなく、比較的相場リスクの小さな歯科鋳造用銀合金(以下、銀合金)を利用した歯科修復物を口腔内にセットするケースが見られます。
今回は、銀合金の修復物を口腔内にセットするにあたり、患者さんに知っておいていただきたいことを実験結果とともにお伝えします。

毎日のブラッシングで知っておいていただきたいこと

銀合金で製作した歯科修復物を、患者さんが自宅でブラッシングしたところ「歯みがきの泡がグレーになった」という事例がありました。
これはいったいどういうことなのでしょう…

再現試験をもとに次の5点について考察しました。

  1. 泡がグレーになった原因と対策
  2. 同様の事象が発生しない銀合金があるか
  3. 歯磨剤や歯ブラシを変更することで解決できるか
  4. 泡がグレーになった歯科修復物の使用を継続してよいか
  5. 金銀パラジウム合金で泡がグレーになる可能性があるか

再現試験について

ヤマキンでは今回の事象が歯磨剤と歯ブラシおよびブラッシングの力の入れ具合に起因するものと仮定し、再現試験を実施しました。
再現試験では、適量の歯磨剤をつけた歯ブラシを金属試験片に手で1分間ブラッシング(ストローク:約10mm)したのち、泡の色と歯ブラシ毛先の状態を目視確認しました。

金属試験片に用いた歯科用貴金属合金

 

金属試験片は、各貴金属合金を用い、通法どおりに平板上に作製しました。
評価対象面のみ回転研磨機を用いて耐水研磨紙#220、#500、#1200の順で研削後、歯科技工用マイクロモーターを用いチャモイスホイールに研磨材マルチブルー(大榮歯科産業株式会社)を塗布し鏡面研磨しました。

使用した歯磨剤

 

使用した歯ブラシ

 

荷重

 

試験結果:研磨材「あり」の歯磨剤

研磨材が含まれる歯磨剤の場合、泡の色の変化は下のようになりました。

「歯磨剤A」での試験結果

 

【銀合金】

  • 各歯ブラシとも、荷重「強」で泡がグレーになる変化が認められました。
  • 「ハブラシD」のみ、荷重「弱」においても泡がグレーになる変化が認められ、「強」で濃いグレーへの変化が認められました。
  • 「ハブラシD」以外で、色の変化の程度に差異は認められませんでした。

【金銀パラジウム合金】

  • 「ハブラシD」以外で、荷重「弱」「強」とも泡の色に変化は認められませんでした。
  • 「ハブラシD」のみ、荷重「強」で泡にわずかな色の変化が認められました。

試験結果:研磨材「なし」の歯磨剤

銀合金も金銀パラジウム合金も歯ブラシや荷重に関わらず泡の色に変化は認められませんでした。

「歯磨剤B」での試験結果

 

「歯磨剤C(ジェル状)」での試験結果

 

考察

試験結果から、

  • 歯磨剤に研磨材が含まれているかどうか
  • ブラッシング時の荷重

の2点が泡の色の変化に関係していることがわかりました。

  • 歯磨剤に含まれる研磨材の影響について

    研磨材「あり」の「歯磨剤A」は、低研磨・低発泡で長時間のブラッシングに適していることが特長のひとつで、ヤマキンがE社に問い合わせたところ、この製品には歯質へのダメージが少ない研磨材を使用しているとのことでした。

    E社Webサイトより

    一方、ブラッシングによる摩耗には歯磨剤の影響が大きく関与し、歯磨剤に含まれる研磨材の粒子が大きいほど摩耗量は増大し、水ではほとんど摩耗は起こらないとの報告[1]があります。
    今回の再現試験では歯磨剤を水で希釈していないため通常使用より研磨材が多い状態でブラッシングしていますが、低研磨を標榜する歯磨剤でも摩耗は起こる可能性が考えられます。
    一方、研磨材を含まない歯磨剤では、どの条件においても泡の色の変化が認められなかったことから、金銀パラジウム合金より軟らかい銀合金でも摩耗しづらいと考えられます。

  • 歯ブラシの形状による違いについて

    再現試験では、研磨材「あり」の「歯磨剤A」と「歯ブラシD」の組み合わせで泡の色の変化が最も強く認められました。
    「歯ブラシD」の毛は最もテーパー部が長く、毛先が細いのが特徴的で、ブラシの弾性が強いと感じました。
    この弾性により、歯磨剤に含まれる研磨材の研削効果が最も高くなったのではないかと推察します。

  • ブラッシング時の荷重について

    研磨材「あり」の「歯磨剤A」を使用して強い荷重でブラッシングすると、どの歯ブラシでもすべての銀合金で泡の色の変化が認められました。
    ブラッシング荷重の増加により摩耗量は増加する[1]との報告がありますが、今回の再現試験の結果にもその傾向が表れたと考えます。

  • 金銀パラジウム合金について

    再現試験によると、金銀パラジウム合金は銀合金に比べ摩耗しづらいと考えられます。
    ブラッシングによる摩耗は合金の種類によって異なり、歯科鋳造用金合金や金銀パラジウム合金では硬度の高いものほど摩耗量が少ない[1]との報告があります。
    ビッカース硬さは、銀合金が150HV程度であるのに対し、金銀パラジウム合金(パラゼット12-n)は190HVであることから、ブラッシングによる摩耗は金銀パラジウム合金の方が少ないと考えられます。

まとめ

以上の検証結果と考察を踏まえ、次のとおり結論します。

  1. 泡がグレーになった原因と対策
    歯磨剤に含まれる研磨材が原因と考えられます。
    研磨材を含まない歯磨剤を使用すれば泡の色の変化を予防することができます。
  2. 同様の事象が発生しない銀合金があるか
    研磨材を含む歯磨剤を用いた場合、いずれの銀合金でも同様の事象は発生すると考えます。
  3. 歯磨剤や歯ブラシを変更することで解決できるか
    研磨材を含まない歯磨剤を使用することで解決できます。
  4. 泡がグレーになった歯科修復物の使用を継続してよいか
    銀合金そのものの変質が原因ではないため、継続使用して問題ありません。
    ただし、グレーの泡が出たということは銀合金の表面が削れています。削れた金属の表面はより削れやすい傾向があるため、再研磨(鏡面研磨)をする必要があります。
  5. 金銀パラジウム合金で泡がグレーになる可能性があるか
    金銀パラジウム合金であっても歯磨剤や歯ブラシの組み合わせで同事象が発生する可能性はあります。
    これは、歯磨剤中の研磨材が原因ですが、その他にブラッシングの荷重や回数に交互作用があります。歯磨剤中に含まれる研磨材の粒子が大きいほど、ブラッシング回数や荷重が増えるほど摩耗量は大きくなると報告されています[1]

最後に

この試験は製品の優劣を示すものではありません。

また、「泡がグレーになる」組み合わせは、歯面にこびりついた食べかすや歯垢を「よく落とす」ということでもあります。

患者さんの口腔内で使用している材料に応じて、適切なブラッシング指導が重要と考えられます。

[1]高桑雅宣 他.歯科修復用合金のブラッシング摩耗に関する研究. 日本補綴歯科学会雑誌. 27: 689-698. 1983.

 

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