学術・安全性

保険適用CAD/CAM冠システムのオープン化への提言

今回、「歯科用CAD/CAMハンドブック(CAD/CAMの基礎知識から材料特性まで)」を発行するにあたり、弊社では、あらためて保険導入となったCAD/CAM冠が、保険制度の中でどのように発展すべきかをいま一度熟慮する機会を得た。

CAD/CAM冠材料やその技術の発展に向けて、弊社では以下のとおり考える。

1.CAD/CAM冠の現状

ハイブリッドレジンブロックによるCAD/CAM冠が保険導入され、およそ1年が経とうとしている。弊社を含む各材料メーカーから数種類のブロックが発売され、また、機械やソフトのメーカーからも続々と新製品が発売され、歯科医師、歯科技工士など歯科医療従事者が製品を選択できる幅はますます広がりつつある。

CAD/CAM冠については、歯科市場の環境変化によって、さまざまな面から国民医療の発展に貢献するとして、今後の展開には大いに期待がかかるものである。

各材料メーカーは、硬さや曲げ強度などの材料物性に研究を重ね、特徴づけられた多くの製品がラインアップされていくことで、より一層材料選択の幅が広がり、様々な症例に対応することで患者のQOL向上に役立っていくものと考える。

2.CAD/CAM冠材料と装置の定義

昨年(2014年)2月に、CAD/CAM冠の保険導入にあたり、日本歯科材料工業協同組合主催で、厚生労働省担当官を招いた説明会が開かれた。当日の配布資料には、CAD/CAM冠材料と装置の関係について、次のように記載されている。

「CAD/CAM冠は、CAD/CAM冠用材料との互換性が制限されない歯科用CAD/CAM装置を用いて間接法により製作された歯冠補綴物をいう。」

平成26年2月14日 保険導入説明会 配布資料から抜粋

これについては、より詳細に担当官から「材料と装置が1対1でない、つまりオープンシステムであること」という趣旨の説明を頂いた。
つまり、CAD/CAM冠は保険適用の技術であるため、国民が一様にメリットを享受できるものでなければならない。ある特殊な仕様によって、機械と材料の自由な選択が阻害されることはふさわしくないという考え方に基づいた定義である。

3.「クローズシステム」の弊害について

ここで重要なことは、国民全体のメリットを思えば、保険適用のCAD/CAM冠においても、工業界などで言ういわゆる「オープンシステム」でなければならないということである。

CAD/CAM冠で用いられるCAD/CAM装置には、スキャナー、CADおよびCAMそれぞれのソフトウェア、切削機が必要であり、各社から提供される製品が「オープンシステム」として互換性を持つことによって、歯科医療従事者の選択の幅が確保され、国内で培われてきた地域医療の発展に寄与できる。
そればかりか、「オープンシステム」であれば、CAD/CAM関連メーカーが、よりよい製品づくりや機能性向上の努力を進めることができ、技術の伝承や発展に貢献し、良質の医療を提供することができる。

逆説的にいえば、一部のメーカーが機能や情報を囲い込み、互換性を失ったいわゆる「クローズシステム」では、使用者の選択の幅が狭まるばかりか、各社の機能性向上への努力の妨げとなり、よりよい製品づくりに支障をきたす。

4.保険適用CAD/CAM冠の「オープンシステム」化について

一般消費財とは異なり、全ての国民が公的医療保険に加入し、全国どこでも平等に医療サービスを受けられる国民皆保険制度の趣旨において、CAD/CAM冠に関わる全てのメーカーは、他社製品を機能的にも販売施策的にも阻害することなく、自由に歯科医療従事者が選択できるようにすべきである。これは一層発展した製品を開発する環境が整うことで、各社製品の性能向上が活発化し、全国民が一層良質な医療を受けられることが目的である。
将来に向けた国民医療レベルの向上という、高い意識を持ってすれば、現在一部のメーカーが推奨しているような、他社製品との組み合わせを阻害する「クローズシステム」はふさわしいものではなく、「オープンシステム」であることが唯一の条件と考える。

機械メーカーも材料メーカーも、一部メーカーが己の利益を追求するあまり技術や情報を囲い込む、国民の不利益につながる行為は慎むべきである。
アナログからデジタルへの技術の不連続期にある今、CAD/CAM冠に関わる全てのメーカーは、新しい技術の発展を思い、同じ方向を向いて進むことで国民全体が等しく利益を享受できるよう導かなければならない。それは「オープンシステム」化の推進に業界全体が取り組む必要があると強く確信する。